【後退した顎】 顎(あご:アゴ)が後退、つまり引っ込んでいる状態では横顔でEラインが決まらず、口が突出して見えがちです。この場合の手術の大半はシリコンプロテーゼを用います。顔面を横から見て鼻・口唇・顎の先を結んだ線をエステティックライン、略してEラインと称します。日本人はこれが一直線になるのが理想的です。
シリコンプロテーゼの安全性は確立されており補充材料としてベストです。
アゴがきちんと出ていると芯の強さやインテリジェンスの高い印象になるものです。
【大き過ぎる顎(あご:アゴ)】 近年は下顎骨の発育が良好過ぎて顎が大き過ぎる人も増えてきました。「しゃくれてる」など揶揄されます。骨が原因ですから、それを削らなければならず、治療は全身麻酔下に口の粘膜を切開し、骨膜を剥離、その骨膜下で骨を削ったり切ったりします。昔は局所麻酔下に二重顎のラインから皮膚を切って顎先の骨だけ削っていたものです。
鼻と同様に顔面のオーグメンテイション(付加する事)において一般的に使用されているのがシリコンプロテーゼです。安全性は確立され、一般医療でもペースメーカー、人工関節の一部などで使用されています。それを挿入しアゴを出します。アゴ用プロテーゼは概ね上下から見てブーメラン型をしています。これを、理想的には骨膜の上に入れるのが良いとされます。骨膜の下でなく上というのは、この部位は骨にプロテーゼがペッタリくっ付けば後々骨萎縮(骨吸収)が起きてプロテーゼが沈み込むからです。骨吸収された骨はレントゲンで黒めに写り歯科・口腔外科の撮影時に指摘されたりします。鼻のプロテーゼの場合は骨膜の下に入れても大丈夫なのは、実は鼻の骨と顎の骨は発生学的に異なり、顎の骨は鎖骨と同じ種類のものだからです。
顎のプロテーゼは、このHPのトップ頁の中央に挙げた既製品のプロテーゼを少々削って入れる事もありますが、顎がかなり後退している人には、画像の様な完全オーダーメイドの両サイドまで延びたロングタイプのプロテーゼを使う事も少なくありません。既製品もあるのですが、ジャストフィットさせる意味で私は自分でシリコンブロックから削り出したものを、その患者さん様に事前に作っておきます。このロングタイプは長いものだけに挿入がやや大変です。またこのシリコンプロテーゼの両端の近くにはオトガイ神経の出口がありますから、いつもそれを気をつけてやっています。
手術でアゴを出す前にプチ整形感覚で、ヒアルロン酸注入でもアゴを作り出す事も最近はブームと言えます。従来これはいずれ全て吸収されてしまうと言われていましたが、最近のヒアルロン酸は架橋を密にしている為なかなか分解されず、そのうち被膜が被ってくることで分解出来なくなり一部は残るものです。
なおヒアルロン酸は硬くなく注入ではプロテーゼに比べ顎がしっかり出ないので、人にバレず自然に軽く前に出したい程度しかできません。なおヒアルロン酸分解酵素(ヒアルロニダーゼ)で溶かして形を元に戻すことも出来ます。
また脂肪注入でアゴを前に出すことも可能です。この場合お腹周り等の脂肪を採取し注入します。これは局所麻酔で行えます。ただし、この方法も長くみれば脂肪が80%以上は吸収されてしまうのでプロテーゼの様な確実性は期待できません。
顎(あご:アゴ)の骨を小さくするために骨を削るのですが、ただ削るだけでは頤(オトガイ)の先端に付いている頤(オトガイ)筋群の付着部を外してしまい顎が弛み二重顎が目立ち易くなるので、最後の縫合の際、この頤筋群の付着部も前に引っ張って固定する必要があります。 もしくは先端の骨を残して中間の骨を中抜き(丁度ダルマ落としのような)して骨接合すれば、頤筋群の弛みを最小限にできます。またこの中抜き手術なら、顎を短く小さくすると同時に顎先を前に出すよう末梢骨片を前に出して固定することもできます。この末梢骨片はワイヤーで固定します。金属プレートでガッチリ固定しなくてもワイヤーで十分骨癒合します(私の多数の経験上)。 また削り、中抜きいずれにしても同時に下顎骨の側方をエラに向かって削って行かなければなりません。これを怠ると美しいフェイスラインは作れません。 なお中抜きで末梢骨片を留めたワイヤーは1年経ったら除去可能です。もっともワイヤーが入っていても悪いことはありませんが、レントゲンに映るので気になる人は除去しています。 この骨の手術は全身麻酔で行います。骨を切った部位からは骨髄性の術後出血がしばらく続きますから安静をとると伴にドレーンを使い、その出血が体外に排出できるようします。従って1泊入院が望ましいでしょう。
【頤(オトガイ)神経】 顎(あご:アゴ)の骨切り&骨削り手術の弊害では頤(オトガイ)神経損傷が先ず挙げられます。着実な変化を出そうと神経の近くでギリギリまで削るような手術で起きるものです。頤(オトガイ)神経は下顎骨から出ている穴の下5mm位で骨の中の下歯槽神経管を通るので、5mm以上末梢で骨切りをしないといけないものなのです。もしこのことが分かってない術者がいたら大変危険です。
しかし、下顎骨の手術で良いフェイスラインを得るような側方までの骨削りを行えば神経は切らないまでも術中に牽引はしますから、術後一過性の知覚鈍麻はよくあるのが医療水準だと考えて下さい。ただ頤(オトガイ)神経は切断しない限りは回復は良い神経なので一過性の麻痺は必ず回復します。某大学病院ではやや乱暴ですが、術中に邪魔になる頤神経をメスでスパッと切断し、骨を削り終えてから丁寧に縫合すると聞きました。それでも知覚は2年かかりますが完全に回復するとの事です。この神経は切断したままにならなければ一応安心して良いものと考えられています。
【術中出血】 骨を切る以上は骨髄性の出血は避けられませんが、下顎骨のサイドを削る時、近くの顔面動脈を損傷するとかなりの出血があります。確実に骨膜下で剥離、慎重な操作が求められます。
【顎の中心線のズレ】顔の左右差で例えば右の発育が良いと顎先が左寄りになるものです。顎が後退している時は目立たなくても、プロテーゼを入れた際に、それが目立ちます。手術では顎先の中心と顔全体の中心線の両方を考えて審美的に良い位置に入れます。
【プロテーゼの加工・挿入、骨削りの拙劣】プロテーゼ挿入後にグラグラ動く、プロテーゼの境目がクッキリ見えるケースは加工の問題です。また骨削りをした形がイビツになっているケースがあります。これらは術者の腕の拙劣さによる場合が多いでしょう。